電話加入権(2006.05.23)
NTTが昨年3月、7万2000円だった電話加入権を半額に引き下げたことをめぐって、既存の加入権を数多く抱える通信機器レンタル業者らが「財産権の侵害だ」として裁判を起こすことになった。
固定電話を新たに設置する際、加入者がNTTに支払う「施設設置負担金」は一般に「電話加入権」と呼ばれ、売買や質入れのできる財産権として取り扱われてきた。しかし、NTTが新規加入分を半額に引き下げたために、既存の加入権の価値は暴落し、現在では6000円前後の値打ちしかないという。全国で6000万台といわれる加入電話の数を考えれば、3兆円以上の財産的価値が消滅したことになる。
電電公社が1985年に民営化されてNTTになるまで、電話事業は国営だった。屋外の設備はもとより、家庭の電話器も屋内配線も「国のもの」であり、加入者が勝手に取り外したり、動かしたりすることは禁じられていた。加入を申し込んでも、半年待ち、1年待ちが当たり前だった。
そうした普及期には、莫大な設備投資を加入者に負担させる手法にもそれなりの合理性があったと言えるだろう。
しかし、今や事情はまったく違う。携帯電話の普及によって、固定電話はだぶつくほどまでに行き渡り、インフラ整備に莫大な設備投資を要する時代ではなくなった。電話器も個人の所有物になった。
日本が発展途上にあった時代に生まれた加入権制度は、電話がひと通り普及した段階で根拠を失っていた。遅くとも、1985年にNTTが発足した時点で廃止しておくべきだった。それを政府とNTTが先送りしてきた。
加入権が物権であれ債権であれ、一種の財産権であったことは間違いない。新たな加入権の引き下げによって、既存の加入権の価値が暴落し、加入者が財産的損失を蒙ったとすれば、その利益は潜在的にNTTに移転したことになる。ならばNTTが一定の範囲内で補償すべきだろう。
仮に3万6000円を10年払いで全額補償するとしても、月に直せば300円である。基本料金を300円引くことは、不可能ではあるまい。
あるいは、休止している電話だけ3万6000円で買い上げるという考え方も成り立つ。それだって、親が亡くなって要らない回線を2本も3本も抱えている家庭には歓迎されるはずだ。
加入権問題は、大げさに言えば6000万台の固定電話の資産はだれのものか、という電話事業100年の歴史にかかわる。裁判では、そうした視点からの論争を期待したい。