富士登山 (2008.08.07) 曽倉哲

 

 富士山に登った。標高2300メートルの五合目から歩き始めるのだから、3776メートルの山頂まで1500メートル足らず。1700メートル級の九重連山に毛の生えたようなもんだろうと甘く見ていたら、とんでもない勘違いだった。標高差の問題ではなく、スケールの差による奥行きが桁違いなのだ。

 初日の8月3日は、昼過ぎから3時間半かけて八合目(3000メートル)に近い東洋館という山小屋まで。ここまではまずまず想定内だった。早い夕飯をとり、数時間仮眠。日付の変わった4日午前零時過ぎに小屋を出発し、ヘッドランプで足元を照らしながら、ジグザグ坂をひたすら登る。上方の山小屋の灯りを目当てに「あそこまで何とか」と頑張って、ようやくたどり着いたと思ったら、次の山小屋の灯りが遥か前方にちらついている。蜃気楼を追いかけるような、ガックリくる思いを数回繰り返して、午前4時半過ぎ、どうにか山頂にたどりついた。

 ご来光にはぎりぎり間に合った。山頂は人、人、人。数百人、いや千人はいそうだ。水平線にわずかにたなびく雲の下から、朱色の太陽の端っこが顔を覗かせると、期せずして歓声が上がった。

 相棒は上の娘の亭主と義父だ。義父は吾輩より年長なのに、ちっともこたえている様子はない。日ごろダンベルやウオーキングマシンで鍛えているそうだから、その成果なのだろう。吾輩だけがお荷物状態だった。足元が暗い、道のりが長い、空気が薄い、気温が低い。苦しいばかりで、登山を楽しむ余裕はなかった。今回の登山に備えて、7月13日に宝満山、26日に若杉山と、近くのコースで足慣らしをしてきたつもりだったのに、まるで役に立たなかった。

 富士登山のラッシュぶりはテレビや新聞のニュースで承知していたものの、山小屋の多さと充実ぶりには驚いた。吉田口(山梨側の河口湖から)ルートだけで15もの宿がある。自家発電装置で電灯を点け、冷蔵庫を冷やす。トイレは浄化槽に溜める水洗式。寝るところも昔のような大部屋での雑魚寝ではなく、キャビンのような小部屋に一人ずつ寝台列車並みのスペースがとってある。

 冷蔵庫にはビールや茶、ジュース類が詰まっている。東洋館では、350ミリリットルの缶ビールが600円、500ミリリットルのペットボトル飲料が500円だった。平地の3倍だ。上に行くに連れて値段は上がるけれど、金さえ持っていれば手ぶらでも登れるのだ。トイレは自主的に100円を入れる。

 金と言えば、下山途中の六合目あたりから五合目の登山口まで馬が何頭も行き来していた。くたびれたり足を痛めたりした客を乗せる商売だ。客と馬方のやりとりを聞いていたら、「1万2000円」という金額が耳に入った。一時間そこらの距離であっても、もう歩けないという気分になれば、背に腹は代えられないのだろう。馬方の親父にはホクホクの夏山シーズンは、馬にとっては地獄の季節だ。