愛すべき動物、それは犬 (2007.09.17) 水木怜
玄関のチャイムに吠え捲るココアを小脇に抱えドアを開けると、体格のいい郵便屋さんが立っていた。しかし身体がすっかり後ろに引いている。一目で犬嫌いと分かった。小包を差し出す手が小刻みに震えている。噛まれた経験があるという郵便やさんに思わずココアの口を押さえた。
さて、私の息子の友人は無類の犬好きだが、彼が年賀状配達のバイトをやっていた頃の話だ。彼の配達区域に立派な門構えのお屋敷があった。「猛犬注意! この犬は人を噛みます、絶対に中へ手を入れないでください」と貼り紙がしてあり、放し飼いのドーベルマンが牙を剥いて門扉に飛びついてくる。「よし、いつかこの犬を手なづけてみせる」と大学一年の彼は、そのとき決心したそうだ。二年生の冬もドーベルマンは健在で彼を見るなり、扉にぶつかり唸り声をあげた。「よしよし、元気な奴だ、今に見てろ」。やがて三年目の冬、バイトは今年限り、と決めていた彼はその家に向った。門扉の前に静かにしゃがむと彼に鼻先をつけてくる。「ほら、見ろ」と彼はほくそえんだ。どんな犬でもこちらが誠意をみせれば必ず応えてくれるものだ。嬉しくなって、門扉の鉄冊から静かに手を差し入れて見た。しかし、ドーベルマンはいきなり噛み付いた。彼の指は食いちぎられる寸前で十数針も縫う大怪我だった。「だから、この犬は危険なんですよ…、ちゃんと書いてたでしょう…」家人がうんざりしたように言った。然し彼は信念をまげない。「あのときの俺の近付き方に問題があったのであって、決してあのドーベルマンは悪くない」と犬のかたを持つ。
私は彼のような勇気はないが犬が大好きだ。ペットショップの檻の中で心細気に震えていたココアを連れ帰り、可愛さのあまりについ躾も甘くなってしまったことは認める。しかし、彼女は犬が好きな人には決して吠えない。ゴロリンとおなかを見せて敬服のポーズを取る。ココアは私に無償の愛と服従を持って私を励まし、慰め、潤してくれる。そんなココアは私にとって不可欠な存在である。